3,000億ドルの新たなブルーオーシャン：ステーブルコインエコシステムの3つの主軸

ステーブルコインのサブセクターは、コンセプトから現実へ、投機から実用へと移行しつつあります。

執筆：Biteye コア貢献者 Louis

編集：Biteye コア貢献者 Denise

序論：ステーブルコインエコシステムの歴史的転換点

2024-2025年、世界のステーブルコイン市場はかつてない爆発的成長を遂げており、10月時点でステーブルコインの総時価総額は3,000億ドルを突破しました。2024年末の1,663億ドルから年成長率は82.9%に達しています。この成長は歴史的記録を更新しただけでなく、ステーブルコインが周縁的な投機ツールから主流金融インフラへと根本的に転換したことを示しています。

現在の市場におけるステーブルコインの総量と取引量データ

規制環境の歴史的なブレークスルーがこの成長を強力に後押ししています。2025年7月、米国のGENIUS法案が正式に法律として署名され、初の連邦レベルのステーブルコイン決済フレームワークが確立されました。同時に、EUのMiCA規則が2024年12月に全面施行され、ステーブルコイン業界の規範化発展のための堅固な基盤を築きました。

GENIUS法案後のステーブルコイン成長

USDTとUSDCが依然として主導的地位を占めていますが、その市場シェアは91.6%から83.6%に低下しています。ステーブルコイン市場は静かに変化しつつあり、新興のステーブルコインプロジェクトが急速に台頭しています。例として：

• EthenaのUSDeの時価総額は110億ドルに達する
• PayPalのPYUSDの時価総額は27.6億ドルを突破
• RWAサポートのステーブルコイン市場規模は350億ドル、年成長率46%

各ステーブルコインの市場シェア

ステーブルコイン専用パブリックチェーン：インフラ革命

従来のブロックチェーンはステーブルコイン取引の処理において顕著な課題を露呈しています。Ethereumの高額なgas手数料はしばしば数十ドルに達し、取引確認時間は数秒から数分まで様々です。Tronは手数料が低いものの、中央集権リスクや技術的制限に直面しています。

新世代の専用ステーブルコインパブリックチェーンは技術革新により質的なブレークスルーを実現しています。これらのチェーンは一般的に1000+TPSの高スループット、ゼロまたは極めて低い手数料、そしてサブセカンド級の取引確認をサポートしています。さらに重要なのは、ステーブルコインをネイティブgasトークンとして設計し、暗号資産価格の変動がユーザー体験に与える影響を完全に排除している点です。

Plasma：Tetherエコシステムの旗艦プロジェクト

Plasmaはこの分野のリーダープロジェクトで、総資金調達額は7,580万ドルに達しています。2025年2月にはBitfinexとFramework Venturesが主導した2,050万ドルのシリーズAラウンド、Peter ThielやBybitなど著名な投資家も参加しています。2025年9月25日のメインネットテスト開始後、TVLは急速に53億ドルに達しました。

技術面では、PlasmaはカスタムのPlasmaBFTコンセンサスメカニズムを採用し、サブセカンド級のファイナリティと2,000+TPSの処理能力を実現しています。コアイノベーションはPaymasterシステムで、USDT送金の真のゼロ手数料を実現し、カスタムgasトークンや機密支払い機能もサポートしています。Chainlinkオラクルを統合し、非カストディアルなBitcoinブリッジpBTCを通じて完全なDeFiエコシステムを構築しています。

Stable：機関投資家向けUSDT最適化ソリューション

Stableは「現実世界の決済レール」として位置づけられ、機関投資家向けUSDTアプリケーションに特化しています。2025年7月にはFranklin Templeton、Hack VC、PayPal Ventures、Bitfinexが共同投資した2,800万ドルのシードラウンド資金を獲得しました。StableBFTコンセンサスを採用し、10kTPSと秒単位のファイナリティをサポートしつつ、EVM互換性も維持しています。

Stableの技術的特徴はUSDTをネイティブgasトークンとして使用し、アカウントアブストラクションを通じてP2P送金のゼロ手数料を実現している点です。エンタープライズ機能にはバッチ転送集約、コンプライアンス対応のプライベート転送、クロスチェーンUSDT0サポートなどがあります。PayPalのPYUSDステーブルコインも統合し、法定通貨のオンオフランプやデビットカード発行事業に重点を置いています。

Arc：Circleの専用エコシステム

Circle社が開発したArcは「ステーブルコインファイナンスのホーム」と位置づけられ、Circleエコシステムと深く統合されています。USDCをネイティブgasトークンとして使用し、米ドル建ての予測可能な手数料構造を保証しています。技術的にはMalachite BFTコンセンサスエンジンを採用し、3,000TPSとサブセカンド級のファイナリティをサポートしています。

Arcのユニークな点は、内蔵のFXエンジンにより見積もりベースのステーブルコイン変換をサポートし、オプションでプライバシー機能によるコンプライアンス遮断も実現しています。また、詐欺対策として可逆的なUSDC取引の検討や、ドイツ証券取引所との協力によるEU市場での導入推進も進めています。

資金調達規模や技術進展を見ると、PlasmaはTetherエコシステムのサポートと最も早いメインネットローンチでリードしています。Stableは機関投資家向けのポジショニングとPayPalとの協力で差別化された競争力を構築し、ArcはCircleのコンプライアンス優位性とUSDCエコシステムの地位を活かしています。3つのプロジェクトはいずれもBFTコンセンサスメカニズムを採用しており、従来のPoSの確率的ファイナリティよりも決済シーンに適しています。

利息付きステーブルコイン：革新的な収益モデル

利息付きステーブルコインは、収益を直接ステーブルコインに組み込むことで、ユーザーに従来の銀行預金を超える収益体験を提供しています。

Ethena USDe

USDeの時価総額は2024年1月の8,600万ドルから2025年10月の110.4億ドルへと急増し、13,750%という驚異的な伸びを記録し、世界第3位のステーブルコインに躍進しました。

USDeの技術革新は、デルタニュートラル戦略を用いて安定性を維持している点にあります。ETHやWBTCなどの資産をステーキングしつつ、取引所でヘッジ先物ポジションを開設することで、方向性リスクのないエクスポージャーを創出しています。sUSDe保有者には2.56%-3.72%の年率収益が提供され、収益源はEthereumステーキング報酬、パーペチュアル契約のファンディングレート、ステーブルコインの固定収益などです。

Skyエコシステム

Skyエコシステム（旧MakerDAO）は、ブランドアップグレードと製品イノベーションを通じて分散型ステーブルコインレンディング市場を再構築しました。USDSはリワード型ステーブルコインとして時価総額80億ドルに達し、Sky貯蓄金利メカニズムによりユーザーに4.75%の年率収益を提供しています。

収益はプロトコルの余剰金（貸付手数料や清算収入）から生まれ、SSRメカニズムを通じて貯蓄ユーザーに分配されます。また、SubDAO再編のEndgame計画を打ち出し、Spark、Grove、Keelなどの専門サブプロトコルで様々なサービスを提供しています。

ステーブルコイン決済インフラ：世界金融の再構築

2025年、ステーブルコインのクロスボーダー決済処理量は46兆ドルに達し、Visaのスループットの50%以上に相当します。従来のクロスボーダー決済の手数料構造は通常2-7%で、送金手数料、為替差損、中介手数料などが含まれますが、ステーブルコインはコストを0.5-2%にまで削減でき、高頻度のクロスボーダーシーンでは50-80%の節約が可能です。さらに重要なのは、ステーブルコインの決済時間が従来の3-5営業日から3分以内に短縮され、事前資金調達の必要性やキャッシュフローの中断を大幅に減少させることです。

BVNKの急成長

BVNKはステーブルコインインフラプロバイダーとして、2025年に事業が力強い成長を遂げ、年間取引処理量は200億ドルを超えました。主にWorldpay、Flywire、dLocalなどの企業顧客にサービスを提供しています。Citi Venturesは2025年10月にBVNKに戦略投資を行い、グローバルなステーブルコイン決済レールの拡大を支援しています。同時に、CoinbaseとMastercardはBVNKの買収交渉を進めており、評価額は15-25億ドルとされ、これは史上最大のステーブルコイン買収案件となり、企業向けステーブルコイン決済におけるその中核的地位を際立たせています。 

Stripeの革新的な展開

Stripeはステーブルコインのサブスクリプション決済機能をリリースし、BaseとPolygonチェーン上でUSDCの自動引き落としをサポート、AIやSaaS企業のニーズに対応しています。この機能により決済コストが半減し、AI企業は決済量の20%がステーブルコインに移行したと報告しています。Stripeはまた、Open Issuanceプラットフォームを立ち上げ、企業がカスタムステーブルコインを発行できるよう支援し、AIエージェント決済ツールも統合しています。

ステーブルコインAI統合アプリケーション：未来の金融

AIエージェント経済の台頭により、従来のAPIキーやサブスクリプションモデルはマシン間の自律的取引のニーズを満たせなくなり、AIエージェントに最適化された決済プロトコルやインフラが生まれています。

KITE AI：エージェントインターネットのLayer-1構築

KITE AIはこの分野のリーダープロジェクトとして、AIエージェント経済に最適化された初のLayer-1ブロックチェーンの構築に取り組んでいます。KITEはPayPal VenturesとGeneral Catalystが主導する1,800万ドルのシリーズA資金調達を完了しました。

プロジェクトのコアイノベーションは、暗号化エージェントIDシステム（AIR - Agent Identity Resolution）、プログラマブル権限管理、オンチェーンアトリビューションインテリジェント証明（PoAI）の3つの技術的柱にあります。AIRはエージェントアプリストアとして機能し、AIエージェント間の信頼問題を解決し、開発者はローコードインターフェースでカスタムエージェントをデプロイし、エコシステムマーケットに接続できます。

最近、KITEはBrevisと戦略的パートナーシップを発表し、ゼロ知識証明技術を活用してエージェントIDと決済モジュールの透明性と自律性を強化しています。この協力の最初のモジュールはBNB Chainにデプロイされ、今後はKITE L1に拡張しクロスチェーン証明リレーを実現します。

x402プロトコル：HTTP決済標準の再定義

x402プロトコルはCoinbase、Google、Cloudflareなどのテックジャイアントによって推進されています。クライアント（AIエージェントやアプリケーションなど）が保護されたリソースにアクセスする際、サーバーは402ステータスコードとJSON形式の決済詳細（金額、通貨、受取アドレス）を返します。クライアントは署名済み決済トランザクションを構築し、X-PAYMENTヘッダーでリクエストを再送信します。Coinbaseなどの第三者ファシリテーターがオンチェーン決済を検証した後、サーバーはリソースアクセス権を付与します。全プロセスはトラストレスに実行され、決済はオンチェーンで決済されるため監査可能です。

x402の技術的優位性は、ネイティブなHTTP統合と極めて低い取引コストにあります。Base上のUSDC決済は2秒以内に完了し、gas手数料は0.0001ドル未満、プロトコル手数料はゼロです。

投資展望とリスク評価

ステーブルコインのサブセクターは、コンセプトから現実へ、投機から実用へと移行しつつあります。4つの新興分野の中で、専用ステーブルコインパブリックチェーンは最も明確な投資価値を示しています。PlasmaはTetherエコシステムのサポートと53億ドルのTVLで市場需要を証明し、技術的な堀も明確です。企業向け決済需要の爆発に伴い、この種のインフラプロジェクトはプレミアムバリュエーションを獲得する可能性があります。企業向け決済ソリューションは規制環境の改善の恩恵を受け、BVNKの15-25億ドルの買収評価は伝統的金融大手がステーブルコインインフラを認めていることを反映しています。AI統合アプリケーションはまだ初期段階ですが、技術革新とユースケースの検証速度は予想を上回っており、リスク許容度の高い投資家に適しています。利息付きステーブルコインはリスク・リターン比が最も複雑で、合成モデルは極端な市場下でのペッグ外れリスクを無視できません。

規制リスクは依然として最大の変数です。GENIUS法案やMiCA規則が業界発展の枠組みを提供しているものの、具体的な実施細則や執行基準は進化中であり、ステーブルコイン分野のプロジェクトはコンプライアンスコストや政策変化に継続的に注目する必要があります。競争リスクは伝統的金融大手の参入で激化し、Stripe、Visa、Mastercardなどの企業の戦略的展開が市場構造を再構築するため、新興プロジェクトは技術革新とエコシステム構築でリードを維持する必要があります。

ステーブルコイン新分野への投資では、技術革新、規制コンプライアンス、市場需要の3つの側面でバランスを取る必要があります。2025年に主要プロジェクトが次々とローンチされ、規制フレームワークがさらに明確化するにつれ、このステーブルコインインフラのアップグレードラウンドは世界の決済構造を再構築し、早期参加者に豊かなリターンをもたらすことが期待されます。